異世界転生する前に

異世界転生する前に

異世界転生する前に現代社会の栄智を勉強しておきたい

紙(和紙)

パピルスや羊皮を使っている異世界ファンタジー世界や中世ヨーロッパでは、植物から作れる「紙」はチート能力になり得る可能性があります。特に一般に本を普及させたのち、印刷技術が発展すれば、雑誌・新聞・広報などで紙の需要は増すと思いますので、そこに一枚噛める利点があります。作家より本屋より、その元の紙の供給者が一番儲かると思います。

 

今、現在自分達の世界で使われている紙の大部分は木のチップなどから作られる洋紙になります。洋紙を創るのには、強力なアルカリ性溶液・・・具体的には「水酸化ナトリウム」が必要になります。食塩水を電気分解さえできれば大量かつ簡単に入手出来る薬品ですが、『電気』が無い状態だと不可能では無いのですが、入手が難しくなります。また『ガラス』が無い状態だと、管理がかなり難しいです。今回は木灰で創れる和紙を目指すことにします。

 

和紙の原材料は「楮・雁皮・三椏」が有名ですが、野生で生えてるの見分けつきますでしょうか?これらは物凄い質の良い和紙を創るのに適しているモノで、自分たちが欲しい和紙ならば「クワ」で十分だと思います。厳密には楮でも何年目の~みたいな適性があるみたいですが、そこはトライ&エラーで。

和紙の創り方は、場所や文献によって多少異なりますが、大まかにまとめると以下の流れになります。

素材の確保⇒皮剥ぎ⇒煮熱⇒ちり取り⇒叩解⇒紙漉き⇒脱水⇒乾燥(前後違いなど多々あり)

①素材の確保・・・桑(もちろん楮でも良い)の枝を採集する。

②皮剥ぎ・・・採集した枝を数時間蒸すか、一晩水に浸ける。そうすることで、枝の皮が剥きやすくなる。一番紙に適した部位は、皮と一緒に剥ける白い部分(靭皮)なので、皮だけ丁寧に剥く。皮を剥いた部分を乾燥させ、再度流水に浸けて置く。

(紙は木の繊維で出来ているので、質に拘らなければ、そこじゃなくても創ることは可能だと思いますが、一番成功率が高そうな部位を上げておきます)

③煮熱・・・木灰(流水などで炭酸カリウムが流れていない物)を溶かしたお湯で②の皮を煮る。物によるが2~3時間。

④ちり取り・・・流水で一度ゴミや木灰を洗い流し、再度乾燥させてゴミを取り除く。

⑤叩解・・・角材を用いて④を叩いて細かく砕く。

⑥紙漉き・・・⑤で出来た材料を水の中に混ぜる。俗にいう船水。この時に『簾桁』(上記写真の四角形の道具)が必要なのですが

 

紙のサイズの型枠創るのは、日曜大工レベルでも可能な範囲なんですが、その下に敷く『簾』がかなり難しいです。(厳密に言うと、簾じゃなくても、紙料だけ残して水だけ落とす、例えばステンレスやプラスチックの網なんかでも可なんですが、異世界や文明崩壊時に一番手が届きそうなのは簾)

材料自体は、竹と紐だけあればいつでも作成可能なんですが、簾の元になる竹ひごを創るのに職人技が必要です。(しかも、現代より道具が無い状態での作成)竹ひごを「こもづち」って呼ばれる縄文時代のアンギン編みをする道具で紐を編んでいくんですが・・・職人じゃない自分の自力では不可能に近いですね。以前、話したように『職人』は他の人の技量を頼りたい所です。

紙漉きには

①流し漉き・・・簾桁を上下左右に動かして均等な紙料にする。何度も紙料を掬って調整。

②溜め漉き・・・紙料を簾桁に溜めながら、小刻みに動かし調整し、大きく動かすこと無く一度で持ち上げる。持ち上げた状態で動かさないで水を切る。

の2種類があります。紙作りで一般の人が想像するのは、「流し漉き」だと思います。どちらも職人技が必要ですのでどちらが良いとかは無いと思いますが、文献上は流し漉きには『ネリ』が必要で、溜め漉には『ネリ』が不要です。

現代のネリの主流は『トロロアオイ』『ノリウツギ』なんですが、トロロアオイ茨城県で生産を辞めるのがニュースになるくらいですので、ぽんぽん手に入る品では無いと思います。狙うとしたらノリウツギの皮・ヤマアジサイの皮(ノリウツギアジサイアジサイ属)。

以下、文献にあるネリの一覧・・・アオギリ・キンバイソウ・スミレ・スイセンヒガンバナ・ナシカズラ・オクラ(物によっては流し漉きは不可かも)

⑦脱水・・・簾桁から紙を剥し、一晩放置して水抜きをし、さらに布などで包み、圧縮し(破れないように体重でも可)、紙から水分を抜きます。

⑧乾燥・・・脱水した紙を一枚ずつ板に張り付けて、天日干しでも日陰干しでもいいので水分が完全に抜ければ紙の完成です。

 

余談ですが、最初に説明した木のチップを使った洋紙も、木灰で物凄い時間をかければ作成は水酸化ナトリウムが無くても理論上可能です。竹を使った竹紙も水に半年~1年浸ければ作成可能です。

和紙作成が紙の中では、現実的かつ量産しやすいと思いますが、第二・第三プランとして緊急用として作成する可能性も無きにしもあらずですので、頭の片隅にいれて置いても良いと思います。また、紙の質や滲み対策のために、『デンプン』『炭酸カルシウム』『タルク(滑石の粉)』『ロジン(松脂)』などを混ぜる場合もあります。

 

 

文章だと複雑で難しく、また洋紙と和紙でごっちゃになったりしますが、小学生の体験コーナーでもよくある展示の一つですので、『簾(もしくはそれに準ずるもの)』さえ用意できれば、質さえ問わなければ創る難易度は高くないと思います。

それを言うと身も蓋も無いんですが、異世界だったら紙の素材の木もネリも異世界の適した材料を探した方が早いかもしれません。ただ、紙の作り方や現世での紙になる木やネリの特徴を覚えておくのは無駄にならないと思います。文明崩壊後の現世だったら、ネリはヤマアジサイかスミレですかね?昔の日本では容易に入手可能でも、今現在は入手が難しいモノもあり、素材の入手のしやすさ、作りやすさはその時々で変わってくると思います。